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大型・ハイテク物流施設が激増
国内における倉庫の着工件数推移をみると、ピーク時の約5万棟から2009年には約4分の1の12000棟前後まで減り、棟数ベースでは縮小傾向が見られます。
しかし、その一方で床面積は2011年以降、拡大傾向が顕著で床面積2万㎡を超える大型施設の割合が年々高まっています。
建築費も5億円を超える事業用物件が2013年以降増えており、大型化・ハイテク化の波が物流市場に押し寄せていることが分かります。
このような変化が起こっている背景にはいわゆる「ネット通販」の台頭があります。
ネット通販市場(Eコマース市場)は、2005年からの10年間で年平均15.7%という勢いで成長し、2013年には10兆円、2016年には15兆円を突破するなど、急激に市場を拡大。
百貨店の合計売上額が既に6兆円を下回っていることを考えると、小売りの主役がインターネット上に移ったことを実感せざるを得ません。
つまり、消費者の購買スタイルがネット通販に移ったことで、小ロットの個別宅配のニーズが激増し、それに対応した大型かつ先進の仕分け設備を備えたハイテク物流施設が急ピッチで建設されているのが現状なのです。
従って、このような大型物流施設は、不動産建設事業として大きな需要があり、地主さんにとっては魅力的な土地活用策の一つに挙げられます。
物流施設に向いた土地とは
前述のように物流施設の大型化が進行していることから、まずは1万㎡の単位のまとまった土地であることが大前提になります。
しかも、土地活用の上では不利とされる、以下のような条件の土地でも可能性があるのがポイントです。
駅から遠い
駅から遠い土地は、アパートや賃貸マンションとしての活用は困難ですが、物流施設なら問題ありません。
むしろ駅から遠い方がトラックは走りやすく、騒音や渋滞、交通事故の危険性などで住民に迷惑をかけることも回避できるため、物流事業者にも歓迎されます。
幹線道路に隣接
交通量の多い幹線道路に隣接するような土地も、騒音や排気ガスに悩まされるためアパマン用地としては敬遠されがちです。
しかし、物流施設ならトラックの出入りにはむしろ好都合なので、幹線道路沿いの土地は歓迎されます。
高速道路のインターチェンジからのアクセスが良ければ、さらに好適地と言えます。
生活施設が少ない
スーパーや金融機関、学校などが整っていない場所も、アパマン経営には向きません。
物流施設なら、生活施設がなくても問題はなく、むしろ周囲に住宅が迫っていないような環境の方が住民とのトラブルのリスクが少ない分、物流事業者に歓迎されます。
道路との設置間口が狭い
ショッピングセンターやロードサイド店など、一般のマイカー客を対象とした施設を展開するには、道路に接するある程度広い間口が必要です。
しかし、物流施設であれば、トラックの通行さえ確保できれば「旗竿地」のような土地でも問題はありません。
道路際に別の建物が建っており、ロードサイド店用地としては活用しにくかったような土地でも、可能性があるわけです。
市街化調整区域
原則として建物の建設が認められない「市街化調整区域」ですが、「流通業務の総合化及び業務効率化の推進に関する法律」(物効法)によって、物流施設については「配慮規定」が設けられており、建設できる可能性が出てきました。
駐車場やソーラー発電所、資材置き場ぐらいにしか活用できていなかった立地でも物流施設として活用できれば、大きな収益性が見込めるわけです。
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このように、今まで他の土地活用には向かないと諦めていた未利用地・低利用地を有効に活用できる可能性があるのが、物流施設です。
また、運送業の世界では人手不足と人件費の高騰が深刻化しており、これを解決する手段としてドローンを使った個別配送の技術開発が急ピッチで進んでいます。
また、自動運転の実用化も数年後に迫っている現状もあります。
このような技術環・環境整備の進展によっては、より住宅地に近い場所にドローンや自動運転車による物流事業拠点建設用地のニーズが発生する可能性もあります。
その場合、中規模なエリアにも可能性が出てくるので、低・未利用地を所有する地主さんは、物流拠点としての土地活用には常にアンテナを張っておくことが大切です。
物流施設事業のメリットと注意点
メリット
他の土地活用策が難しかったような土地でも、物流施設なら可能性がある点が一番のメリットでしょう。
特に市街化調整区域内でも物流施設としての可能性が出てきたのは大きな追い風です。
大規模な土地を所有している地主さんなら、その可能性を積極的に探ってみるべきです。
また、企業が相手なのでトラブルが少なく、賃料の回収や管理などに振り回される心配もほとんどないのもメリットに挙げられます。
注意点
物流施設の借り手を見つけるのは素人には困難なので、必ず事業計画段階から物流施設開発実績の豊富な企業不動産と進めることがポイントとなります。
その場合、1社だけに絞らず、複数の企業に相談し、テナントの顔触れや実績の推移なども見比べながら、パートナーを絞り込んでいくことが重要です。
物流施設として活用するには
近年の物流拠点はハイテク化が進んでおり、投資規模も億単位が主流となっています。
これを地主さんが負担することも可能ですが、当然ハイリスク・ハイリターン型のビジネスモデルとなります。
今後、物流の世界はめまぐるしく変化する可能性も大きく、最悪の場合事業者が撤退する可能性もあることも念頭に、慎重に判断するべきです。
事業用地としての貸し出し
定期借地権などで、物流事業者に土地のみを貸し出す方法です。
建物の建設は事業者が行うので、地主さんの負担は少なくて済みます。
事業用不動産として貸し出し、借地料をもらう方法となるため、収益はそれほど高くはありませんが、それでもまとまった土地を一括で貸し出せるため、それなりの収益が長期間にわたって約束されます。
また、期間満了時には更地として返還される契約なので、次の土地活用策が計画的に立てられるもの魅力です。
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サブリース会社への一括貸借
最近の傾向として大型の物流施設を建築し、複数のテナント企業に店舗を貸し出す「マルチテナント型物流施設」の開発も盛んです。
このようなビジネスモデルではテナントの募集や管理が重要になるため、サブリース会社に仲介を依頼する事で一括して貸し出し、運営してもらうという方法も多くなっています。
地主さんは毎月決まった賃料を受け取るだけとなり、万が一テナントが退出しても一定の収入を確保できます。
物流施設事業化への相談先
物流不動産の開発には、商社や大手総合デベロッパー、リース部門などを持つ独立系企業、さらには外資系企業や物流施設に特化した投資法人なども参入し、激しい競争が繰り広げられています。
物流施設としての土地活用を考える場合、このような物流不動産開発実績のある専門企業への相談が大前提になります。
前述のとおり、単なるスペース貸しの小規模な「倉庫」はますます淘汰され、大規模・ハイテク型の倉庫へと入れ替わりつつあります。
その利用者(テナント)もネット通販など将来性の高い事業者へと移りつつあるのもポイントです。
つまり、今後の物流施設のメインプレーヤーはネット通販のEコマース事業者などになって行くのは確実で、そのようなテナントを顧客に持ち、主要株主企業である大和ハウス工業や、物流施設の実績を数多く持つ、高松建設などの不動産会社など、業者を選んで依頼することがとても大切となります。大手開発業者でなければ、事業協力企業がいたとしても、物流事業者として生き残ることは難しいかもしれません。
従って、物流施設として今後数十年という土地活用を前提にするのであれば、大型・ハイテクの物流施設開発実績が豊富な事業者に相談し、提案を受けることが鉄則となるでしょう。