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シェアハウスとは
首都圏などでは相続税対策としてのアパートの建設が過熱し、新築アパートの過剰供給が続いた結果、古くて条件の悪いアパートを所有するオーナーほど家賃低下や空室に見舞われる事態が広がっています。
そんな中、ここ数年で5~6倍に市場を急拡大(首都圏)し、注目を集めているのが「シェアハウス」。
従来のアパートとは異なる賃貸住宅を展開することで、従来型アパート同士の過当競争を回避しようとする地主さんが増えているためと見られています。
シェアハウスとは、1つの建物の中に、複数の居室(個人使用)と、リビング・キッチン・浴室・トイレなどの共用施設(共同使用)を備えた賃貸住宅。
いわば、学生寮のような形態で、入居者1人1人と賃貸借契約を結びます。
ちなみに、マンションの一室を1人が借り、友人などと家賃を出し合って住む形態は「ルームシェア」と呼ばれ、シェアハウスとは区別されます。
シェアハウスの場合、アパートのように各居室に浴室やトイレ、キッチンを付ける必要がない分、建築費をある程度抑えられます。
しかも、居室は最小限のスペースで良いため居室数を増やせ、その結果、賃料を抑えつつ共用部分を豪華な設備仕様にすることも可能となり、アパートとの効果的な差別化を狙えるのです。
このため、シェアハウスを専門に建築・サポートする事業者も増えているほか、戸建て賃貸住宅や社員寮などをリノベーションしてシェアハウスに転換する不動産事業者なども出てきています。
ただし、シェアハウスにはアパート等にはないデメリットも潜んでおり、注意も必要です。
まずはシェアハウス経営のメリットとデメリットを押さえておきましょう。
シェアハウスのメリット・デメリット
シェアハウスには入居者・オーナー双方に、アパートや賃貸マンション経営にはないメリットとデメリットがあります。
入居者のメリット・デメリット
メリット
- 費用が安い
アパートや賃貸マンション経営の家賃相場よりも安い家賃に設定されているのが一般的。
また、礼金・敷金といった初期費用も必要がない物件が多いようです。
家具・家電がついている物件も多く、まとまったお金がなくても、手軽に新生活を始められるのも魅力となっています。 - 共用部分が充実
アパートでは必要最低限の水回りしか入っていないのに対し、システムキットンや大型冷蔵庫、広い浴室、シャワートイレ、大型テレビ、ソファセットなど、設備が充実している物件が殆ど。
内装やインテリアにもこだわり、ホテル並みのグレードに仕上げた物件も少なくありません。
アパートとは比較にならないほど豪華な空間を満喫できるのもシェアハウスの魅力です。 - 友達ができる
パブリックスペースがあるので、友達ができやすいのも特色です。
常に誰かがいるので、防犯の面でも安心。
特に女性の場合は「女性限定」のシェアハウスに住むことで安心感がアップします。
デメリット
- 自由は制限される
居室内だけで完結した生活はできないため、自由度が大きく制限されます。
半裸など入居者に不快感を与えるような服装でパブリックスペースに出ることはできないし、共用部分の使い方や共同生活を送る上でのルールも守らなければなりません。
安さと設備の豪華さはアパートとの有効な差別化になりますが、反面、人付き合いが苦手、自由とプライバシーを大切にしたいという方には敬遠される懸念もあるのがシェアハウスです。
オーナーのメリット・デメリット
メリット
- 総収入を増やせる
各居室に水回りを設けるよりも、居室数を増やすことが可能なため、多少家賃収入を抑えても総収入を増やすことが可能です。 - 一般的なアパートとの差別化
アパートが多いエリアでも、アパートよりも安い家賃と豪華な共用スペースなどで差別化できるため、一定の需要を確保できるチャンスが高くなります。
女性限定、ペットがいるシェアハウスなど、特色を打ちだす事で、特定のターゲットを強力に取り込んでいくことも可能になります。
オーナーのデメリット
- 管理の難度が上がる
共用部分の管理はオーナーの負担となるのが普通です。
アパート経営ではノータッチの浴室やトイレ、LDK、ランドリールームなどの掃除も、定期的に行う必要があります。
入居者の当番制などで自主管理してもらうケースも見られますが、入居者任せでは風紀の乱れや建物の美観を損ねるリスクは否めません。
アパート経営なら月一回の循環清掃を委託すれば済むところが、シェアハウス運営では週に何回か管理スタッフに入ってもらう必要性が出てきます。
また、共用部分の照明器具や家電品の交換やメンテナンスもオーナーの責任になってきますし、居室に家具・家電を設置した場合もその責任はオーナーが負うことになります。
そういう意味ではあまり至れり尽くせりにするのは、オーナーとしては考えものなのかもしれません。 - 入居者管理の難度が上がる
入居者同士の交流が増えることは、逆に入居者間のトラブルが多発するリスクを抱えています。
家族でさえ、ひとつ屋根の下で暮らしていればトラブルが発生するのですから、赤の他人が濃密に共同生活を営めば必然的に様々なトラブルに発展するのです。
これをオーナー自身で対処するのは不可能ですし、するべきではありません。
必ず専門の管理業者に委託するようにし、そのための管理委託費用(アパートの管理委託費用よりも割高)は、あらかじめ計算に入れておく必要があります。 - 家賃への影響
アパートでは、同じ間取りであっても、入居者によって家賃に差があっても問題にはなりません。
入居者同士がお互いの家賃の話題を出すようなことは、まずないからです。
しかし、シェアハウスで入居者同士の交流が増えると、お互いの家賃や契約条件を知る可能性があり「不平等ではないか」と問題化する可能性があります。
そうなると、最も安い家賃に揃えざるを得ない事態も考えられるし、入居者がなかなか埋まらなくても家賃を下げられない事態に陥る懸念も生まれます。
入居者に対しては一律同じ条件で契約するしかないというのは、空室対策上は大きな足かせになる可能性があります。 - 入居者審査の難度が上がる
どんな集団にも“ボス”的な人物が現れ、それに従う取り巻きが集まって全体を支配するという事態が起こりがちです。
シェアハウスでこれができてしまうと、新しく入って来た入居者には居心地が悪く、すぐに出て行ってしまうという事態が懸念されます。
これでは賃貸経営の根幹が揺るいでしまうので、そのような人物・集団を生み出さないような対策が必要になります。
方法としては入居者審査を厳格にして良質な入居希望者のみと契約する一方、定期借家契約(半年ごとなど)を結び、質の悪い入居者とは契約更新をしないといった仕組みを作っておくなどの対策が必要になります。 - 入居希望者は限定される
市場規模が急拡大しているとは言っても、現在のシェアハウス入居者は単身者の若者と外国人の入居者ニーズが多く、高齢者の割合は非常に少なくなっています。
不特定多数というよりは「共同生活に抵抗がない」という特定少数がターゲットです。
従って入居者確保には、アパートよりも高いハードルが待ち受けているのが現実。
最近ではシェアハウスを専門に扱うポータルサイトもあるので、そのようなサイトを活用するといった工夫も必要です。
シェアハウス経営を始めるには
シェアハウス経営は、建物の建設にも入居者管理にも、アパートとは違った独特のノウハウが必要です。
“アパート経営の経験があるから、シェアハウスだって大丈夫だろう”、“シェアハウスはマンション経営者向けだろう”と、普通の不動産経営と同じだとタカをくくってスタートすると大やけどの恐れさえあります。
シェアハウス経営に乗り出すには、以下のような方法が現実的でしょう。
シェアハウス事業者に建築から管理まで委託する
シェアハウスで実績とノウハウの豊富な事業者に丸ごと依頼するという方法が、まず挙げられます。
ただし、運営事業者の言われるままに豪華な仕様にするのは危険なのは言うまでもありません。
前述のとおりシェアハウスにはアパートにはないデメリットや注意点も少なくないため、バラ色の収支計画を信じて多額の不動産投資をしてしまうと足元をすくわれる危険性があるのも事実。
必ず複数の事業者に相談し、リスクについても包み隠さずに説明してくれるような会社を選ぶようにします。
たとえ、「一括借り上げシステム」が用意されていたとしても、契約内容が見直される可能性があるのはアパート経営と同じ。
オーナーとしてはアパート経営同様、投資規模を抑えて自己資金の割合を高め、返済比率が50%以下になるような事業計画を目指すことが鉄則です。
リノベーション後管理のみを委託する
もしも、新築では収支計画が厳しい場合は、所有する建物(一戸建て賃貸住宅やアパート、寮など)をリノベーションしてシェアハウスをスタートする方法も考えられます。
新築と比べて借り入れが少なくて済むため、返済比率を50%以下に収めることも容易になります。
もちろん、この場合でも管理運営は専門業者に委託する必要があるため、あらかじめ管理のみを委託できる業者を見つけておくことが大前提です。
まずはできるだけ少ない投資でシェアハウス経営を実践し、ある程度資産を残し、事業としての可能性を確認してからより大きな投資に踏み切るというスタンスが重要と言えます。