今回は、病院や医療クリニックを経営する場合、どのようなメリットやデメリットがあるかをまとめてみました。
目次
医療施設向け賃貸事業の魅力
地主さんにとって、医療施設に土地や建物を貸し出すメリットは次のようなものが挙げられます。
安定性が高い
近年、「地域医療連携」と言って、大病院と中小医療施設の役割分担が進み、中小医療施設は地域の「かかりつけ医」として、住民との結びつきが一層強まっています。
このため、医院建築をし、開業すれば長期間地域の診療所として強く根を張ることになり、地主さんとしては長期的な入居と、安定収入が期待できる“優良テナント“を獲得できることになります。飲食店や小売店などと比べて経営も安定的なので、家賃の滞納やトラブルを起こす心配が少ないのも魅力と言えるでしょう。
また、医療施設向けの賃貸事業は、開業を希望するドクターが見つかってから事業化するのが普通なので、入居者が決まっていない賃貸住宅事業などに比べて、空室リスクを最小化できるのも魅力です。
比較的投資が手軽
アパートや賃貸マンションの場合、浴室やトイレ、キッチンなどの生活機能設備を戸数分作りこむ必要があるため、建築コストはそれなりにかかってきます。これに対し、医療機関向けのビル内診療所のような建物なら作りが単純で済むため、建設時の建築費を比較的抑えられるのも魅力です。
このため、地主さんが建物を建てて建物ごと貸すという事業形態がとりやすく、その分毎月の収入アップが期待されます。賃貸方式で建物への初期投資を回避できることは、これから医院開業を目指す開業医にとっても魅力で、ドクターとのマッチングがしやすくなることにもつながるのです。
地域の価値を向上させる
医療施設のなかったところに医療施設ができれば、それだけで地域の魅力がアップし、ニーズも生まれます。また、医療施設ができることで薬局やコンビニなど商業ビルなどが建設される可能性が生まれ、生活施設の集積によっては賃貸住宅需要が拡大するかも知れません。その場合、賃貸医院を併設した賃貸住宅という選択肢も視野に入ってきます。
現在は賃貸住宅の需要が少ないような立地でも、商業地域が拡大し、地域の核としてまず医療施設を開業させるという戦略もあり得るというわけです。
また、医療施設のオーナーであることは高い社会的信頼を得ることになり、同時に医療施設を誘致するということは高齢者にも喜ばれ、大きな地域貢献にもなります。介護施設や福祉施設との連携を図ることも期待され、収益性だけでなく、地域社会に役立つことができるというのも、医療施設向け土地活用の魅力と言えるでしょう。
相続税対策
医療用施設に貸し出す場合でも、賃貸住宅同様の相続税対策になります。
建物は貸家評価で30%、土地は貸家建付地評価で10~20%下がります。また、土地については小規模宅地の特例の要件を満たせば50%の評価減も可能です。
医療施設向けの土地活用の注意点
逆に、医療施設向けの土地活用のリスクや注意点としては次のようなものが考えられます。
土地の流動性の低下
医療施設の場合、地域と強く結びつくため、その場所に固定する可能性があります。従って、もしも10年後により良い土地活用計画が持ち上がっても、転用できなくなる場合が想定されます。
長期安定収入は地主さんにとってメリットでもあるのですが、様々な土地活用が考えられ、短期間で転用の可能性があるような場所では留意しておく必要があります。
次の借り手が見つかりにくいリスク
医療施設向けの建物は、借り手であるドクターの意向を反映した、いわば注文建築です。
特定の医療に特化した建物になっているため、万が一借り手が出て行った場合、次の借り手が見つかりにくくなる可能性があります。そのような事態を回避するには、ドクターの意向を丸飲みするのではなく、ある程度汎用性のある設計にしておくのも大切です。
医療施設だけでなく、幅広い業種に対応できる基本構造にしておくのがベターでしょう。
周辺住民の反対
規模の大きな医療施設の場合、周辺住民の反対運動なども懸念されます。
例えば、救急車が出入りするような病院ではサイレンなどへの苦情が考えられます。特殊な患者を収容する施設でも、反対運動の恐れもあるので、マッチングの際には充分注意するべきです。
医療施設に適した土地とは
地域医療連携によって中小医療施設の役割は高まっており、今後も手堅い需要が期待されます。
医療施設に適した土地は、主に以下の条件を兼ね備えている土地です。
- 必ずしも駅や市街地に近い必要はなく、少々離れていても駐車場やバスの便が整っている。市街地や住宅地にある土地なら一層有利。
- 複合施設や、大型商業施設の隣接地のような場合は、圧倒的な集客力があるため、すでに周囲に競合する医療施設が存在していても、開業を決めるドクターが出現する可能性がある。
このように、賃貸住宅が過剰供給気味のエリアであるなど、賃貸住宅事業が難しい場合でも、賃貸住宅には適さないような場所でも土地活用の可能性があります。
医療賃貸経営が難しい土地とは
バスなどの公共交通機関が貧弱
バス停から遠い、バスの本数が少ないという場合は、マイカー客以外の来院は難しく、専門性の高い比較的規模の大きな医療施設以外はマッチングできない恐れがあります。
充分な駐車スペースが取れない
徒歩での来院も可能な市街地立地でもなければ、充分な広さの駐車場の確保が必須です。
墓地や葬儀場が近い
墓地や葬儀場など「死」を連想させるような立地は、どんな商売でも敬遠されます。特に医療施設の場合は、わざわざそんな場所を借りてまで開業に踏み切るドクターは少ないと思われるので、事業化は厳しいと言わざるを得ません。
すでに医療機関の集積が進んでいる
すでに充分な医療施設が整っており、参入の余地が少ないような立地では、ドクターとのマッチングが難しくなるので、なかなか事業化が実現しない可能性があります。
信頼できるコンサルタント会社選びがポイント
賃貸住宅の借り手は「不特定多数」なのに対し、医療賃貸の借り手は、ドクターという「特定少数」に限られます。従って、借り手であるドクターとのマッチングが成功しなければ事業はスタートできないわけです。
つまり、医療賃貸事業を立ち上げるには
- ?医療施設に適した土地があること(交通アクセスや充分な広さがあることなど)
- ?医療施設としての事業性が見込めること(充分な医療人口があり、競合が激しくないことなど)
- ?開業を希望するドクターがいること
上記の3点がすべて噛み合って初めて、話が動き出すことになります。
これらのマッチングは極めて専門性が高く、独自のノウハウと医療界に太いネットワークが必要で、一般の不動産会社や建築会社の手におえるものではありません。
実際には、医療専門のコンサルタントや一部の大手ハウスメーカーなどが手掛けており、地主さんの所有する土地が医療施設として適切なのかどうかを調べ、ドクターとのマッチングから建物の建築までサポート・プロデュースしてくれます。
インターネットで検索すれば複数の業者が見つかるので、実績や評判をしっかりチェックして、信頼できるパートナーを選ぶようにしましょう。
その場合、ホームページだけで判断するのではなく、実際に担当者と面談し、最近プロデュースした物件なども案内してもらうようにします。可能であれば、ドクターにも面会し、業者への評価も聞き出すとベターです。しかも、1社ではなく複数の業者と面談して、比較検討するぐらいの慎重さが必要です。