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民泊としての土地活用
人口の減少が進んでいるにも関わらず、賃貸住宅経営に乗り出す地主さんは増え続けており、2015年時点で3年連続増加の326万人を突破したと言われます。
この結果、需給バランスは崩れてしまい、アパートの空室率は東京23区で35%、神奈川で37%と、悪化の一途。
不動産会社が運営している不動産サイトをチェックすると、同時に家賃の値下がり現象も始まっており、賃貸管理会社や賃貸経営をしているオーナーに強い逆風が吹き始めているのは、もはや疑いようもありません。
そんな空室率悪化に歯止めを掛ける方法として、今注目が高まっているのが「民泊」です。
一時の円高が是正されていることやビザ緩和なども手伝って、日本を訪れる外国人観光客は年々増加を続けており、2020年には4000万人を突破すると見られています。
人口1億3000万人に対して4000万人ですから極めて巨大なマーケットが出現するわけです。
一方、訪日外国人ゲストの急激な伸びに対し、ホテル等の宿泊施設の建設は間に合っていません。
その結果、あり余る宿泊需要の受け皿として、空き家やアパート・マンションの空室を短期で貸し出す「民泊」が人気を集めているわけです。
空き家や空き部屋は、そのままでは1円の利益も生まないので、たとえ数日間でも貸し出すことができれば、それだけ大家さんの収入を「純増」させます。
収益が改善すれば、家賃を値下げしなくても凌ぐことができ、家賃相場下落に歯止めをかける効果も期待できるわけです。
ただし、民泊という事業自体が日本国内では未熟だったこともあり、現在、法整備を急いでいるというのが実情であり、いわばグレーゾーンといった危うい環境にあるのも事実。
民泊事業の先行事例もまだまだ少ないため、果たして本当に賃貸事業の空室率改善の決め手になるかどうか、不動産投資として有効活用となるのかについては、慎重に見ていく必要があります。
民泊とは
民泊ビジネスが脚光を集めた背景には「民泊マッチングサイト」の台頭があります。
その先駆けになったのが「Airbnb」(エアービーアンドビー)というアメリカの企業。もともとイギリスなどで定着していた「B&B」(ベッドアンドブレイクファストの略。
民家などに1泊朝食付きで宿泊させるサービス)を、インターネットで簡単にマッチングできるサービスを提供し、世界的に大ヒットしたことが挙げられます。
日本ではB&Bのような民泊の習慣はなかったものの、民宿マッチングサイトが世界的に広がったことから、外国人利用客のニーズに応える形で日本でも民泊に乗り出す家主さんが出てきてというのが経緯です。
しかし、これまで日本では宿泊料を取って部屋を貸し出すことは旅館経営とみなされてきました。
旅館となるとフロントを設ける必要などがありますが、民家やアパート・マンションにはそれに相当する設備はないので、旅館とみなされず、旅館業法違反ともならず、民泊が「グレーゾーン」と呼ばれていた理由です。
そこで、平成30年1月から「民泊新法(住宅宿泊事業法)」が施行されることになり、民泊ビジネスが晴れて市民権を得ることになります。
では、どのような設備があれば民泊経営として、戸建物件として運用可能なのでしょうか?
住宅宿泊事業法・第二条(定義)
- 当該家屋内に台所、浴室、便所、洗面設備その他当該家屋を生活の本拠として使用するために国土交通省令・厚生労働省令で定める設備が設けられていること。
- 現に人の生活の本拠として使用されている家屋、従前の入居者の賃貸借の期間の満了後新たな入居者の募集が行われている家屋その他の家屋であって、人の居住の用に供されていると認められているものとして国土交通省令・厚生労働省令で定めるものに該当すること。
要するに、生活設備が全て揃っている一戸建て住宅や別荘、賃貸住宅なら、まず問題なく民泊利用は可能ということです。
旅館業法に定められていたフロントや大きな手洗い場などは必要ないということ。
ただし、年間の貸し出し日数の上限は180日以内となっているので、注意が必要です。
例えば、1日1人3000円の宿泊費が見込める場所で、毎日3人ずつ宿泊客が利用したとしても、最大でも年間162万円にしかならないということです。
しかも新法では、自身が同居していない部屋を民泊用に貸し出す場合は、管理会社や代行業者を利用することが義務付けられています。
マッチングサイトを利用すればその手数料も発生します。
このような経費が意外にかさむ事に加え、実際には一人しか泊まらない日や、誰も利用しない日もあるはずなので、現実的にはその半分から3分の1ぐらいまで収益が落ちてしまうはずなのです。
代行会社に全てを委託するという方法で民泊を始める人が多いのですが、結果的にあまり大きな収益を産むことが出来ない場合が多くなっています。
もちろん、宿泊費を上げれば収入アップも可能ですが、旅館などの「素泊まり料金」はもともと数千円なので、引き上げ余地はそれほどありません。
少なくとも民泊での収益性は、賃貸住宅収入には遠く及ばないと考えておくべきでしょう。
民泊ビジネスの種類
民泊新法では、家主さんが一緒に居住するかどうかで2通りの民泊スタイルに分けています。
家主居住型
家主さんが住んでいる家に民泊希望者を宿泊させてあげる、いわばホームステイ型の民泊スタイルです。
家主同居型の要件
- 個人の生活の本拠である(原則として住民票がある)住宅であること
- 提供日に住宅提供者も泊まっていること
- 年間提供日数など「一定の要件」を満たすこと
つまり、民泊客を受け入れる時は必ず家主も泊まっている必要があり、休暇で使わない時期だけ民泊として利用するといった場合は、家主居住型にはなりません。
また、住民票がその家にない場合(別荘や賃貸マンションなど)も、家主同居型には認められません。
家主不在型
家主不在型の要件
- 個人の本拠でない、または個人の生活の本拠であっても提供日に住宅提供者が泊まっていない住宅であること(法人所有を含む)
- 年間提供日など「一定の要件」を満たすこと
- 提供する住宅において「民泊管理者」が存在すること
つまり、家主同居型に認められない場合は、民泊管理者を置くことが義務付けられているということです。
所有する戸建物件を民泊用にするには
住民票のある自宅が一戸建て住宅で、使っていない部屋があるような場合、家主居住型での民泊ビジネスをスタートできます。
この場合、民泊管理者を置く必要がないので、収益の面でも有利です。
また、所有する別荘やアパート、マンションに空きがある場合、シェアハウスとして活用していた住宅がある場合は、家主不在型での民泊ビジネスが可能です。
民泊ビジネスを始めるには、何といっても民泊利用客を仲介してもらうマッチングサイトなどの利用が不可欠になるので、いずれの場合も民泊マッチングサイトなどに相談するのが事業化への近道でしょう。
ところで、民泊の場合は年間180日を超えて貸す出すことはできないことになっていますが、180日を超えて宿泊客を受け入れたいという場合は「簡易宿泊所」として事業化する方法も考えられます。
客室を多人数で共有する宿泊施設で、ユースホステルやカプセルホテルのような事業形態です。
特にカプセルホテルは“安価で快適”“日本らしい”などと外国人観光客にも人気なので、思い切ってカプセルホテルに建て替えるというというのも、有効な土地活用策と言えます。
ただし、簡易宿泊所の許可を得るにはいくつかの要件をクリアする必要があります。
設置場所
周囲100m以内に学校(大学は含まない)、児童福祉施設、公民館、図書館、博物館、青少年育成施設などがないこと
建物
客室の延べ床面積は33㎡以上、2段ベッドを置く場合は上段と下段の間隔はおおむね1m以上、適当な換気、採光、照明、防湿及び排水の設備を有すること、泊まる人が入れる充分な広さのお風呂(近くに銭湯がある場合は不要)、充分な数の洗面台、適当な数のトイレ、その他都道府県が条例で定めるもの
※所有物件をリフォームして簡易宿泊所にする場合、100㎡以下の建物なら、建築基準法の「用途変更」手続きは不要です
場所
第一種住居地域、第二種住居地域、準住居地域、近隣商業地域、商業地域、準工業地域のいずれかであること
消防の許可
消防署の立ち入り検査を経て「消防法令適合通知書」を受けること
以上のような要件を満たして申請すれば、旅館業法の許可を受けて簡易宿泊所を開業することが可能です。
ただし、認可を受けるまでには多くの手間と時間がかかるのが普通ですので、カプセルホテル事業者などに相談してみるのも良い方法です。
簡易宿泊所の許可に関してはこちらの記事(不動産投資の森)でも詳しく説明されています。
民泊ビジネスを検討する際の注意点
民泊ビジネスは外国人観光客をターゲットにするという特殊性からいくつかの注意点があります。
需要の偏在問題
外国人観光客の訪問先は、ゴールデンルートと呼ばれる、東京in→富士山→京都→大阪out(またはこの逆のエリア)が中心です。
何度も来日するリピーターはそれ以外の地方を回るようになりますが、まだまだ日本全国をまんべんなく動くという段階にはありません。
従って、東京・京都・大阪以外の地域では、外国の人たち向けの民泊需要には限度があることは頭に入れておく必要があります。
また、数日間滞在して周辺を観光するのに足りる魅力ある観光コンテンツが充実している必要もあります。
さらには交通機関や観光施設、公共施設などには多言語対応も必要ですし、山手線沿線や、総武線浅草橋周辺など、駅から徒歩圏内であり、人気が高い観光エリアである方が、アクセスしやすいと考える外国人観光客は多い事でしょう。
このように外国人観光客の民泊需要は偏在しており、地方の観光インフラや多言語対応などの受け皿にも格差は大きく、日本全国で民泊ビジネスが成功する環境にはないことを理解しておくことが必要です。
建物の問題
所有する空き家などを民泊に活用する場合、安価な宿泊施設と言っても安全性と快適性を担保する必要があるのは言うまでもありません。
万が一床が抜けて怪我でもされたら、その責任を問われかねませんし、風呂やトイレが使えないような事態になり、それがSNSなどで拡散されれば、利用者からそっぽを向かれる恐れもあります。
老朽家屋の場合は、そのまま宿泊客を受け入れるのではなく、必ずリフォームなどで安全性を高め、風呂や水回りなどの設備を新しくして宿泊客を受け入れるべきです。
当然、そのためには多額の費用が発生するので、それでも収益性が確保できるのかどうか(つまり、わずかなリフォームで済むのかどうか)がポイントになってきます。
マナー等の問題
民泊はホテルなどより安いため、利用者の中には質の悪い外国人が含まれている可能性があります。
備品などを持ち帰ったり、風呂やトイレの使い方がわからず、壊したり汚したりされる恐れもあります。
また、旅の開放感から夜中まで騒ぐ、ゴミ出しや飲酒・喫煙のマナーを守らないなどで近所迷惑になる問題も多発しています。
中には薬物などの犯罪の舞台になる恐れすら否めません。
このように、日本人に貸し出す場合では思いもつかないトラブルに見舞われる可能性があることは、覚悟しなければなりません。
いずれにしても、日本では民泊ビジネスはまだまだヨチヨチ歩きの状態です。
どのような問題が隠れているかもわかりません。
従って、現段階では事業化に前のめりになるのではなく、業界の成り行きを静観してからじっくりと判断する慎重さが求められます。