所有地が以前、工場やガソリンスタンド、クリーニング店などだった場合、「土壌汚染」という大問題を抱えている可能性があります。
rff土壌汚染とは、有害な物質や、油などが土壌に浸透し、土や地下水が汚染されている状態。
以前、東京ガスの工場があった区域となる、豊洲新市場で問題になっているのが、典型的な土壌汚染問題です。
人体にとって有害な物質が地下に存在しているわけですから、そのまま土地を売ってしまうと、汚染物質が原因でやがて深刻な健康被害を引き起こしてしまう心配があります。
そこで、2002年に制定されたのが「土壌汚染対策法」で、工場跡地など土壌汚染の恐れが高い場所については地主さんが土壌汚染の状況を調査することが義務付けられています。
土壌対策法で土壌汚染調査が義務付けられているケース
- ?有害物質を製造、使用または処理する、水質汚濁防止法・下水同法の特定施設が廃止された場合
- 3000㎡以上の土地改変を行う場合に、土壌汚染の恐れがあると都道府県知事が認める時
- 土壌汚染により健康被害が生ずる恐れがあると都道府県知事が認める場合
- 都道府県条例での上乗せ条項に該当する場合
(都道府県条例での上乗せ条項の一覧はこちら)
これに該当しなければ土壌調査を義務付けられているわけではありませんが、実際には多くの地主さんが所有地の「自主調査」をしています。
(社)土壌環境センターによると、2013年の土壌調査の内、約73%が自主調査で占められていたほど。
これは、土地を売却した後で土壌汚染が発覚した場合、売り主である地主さんに「瑕疵担保責任」や「説明義務違反」が問われる恐れがあるためで、売買契約の取り消しや、莫大な対策費用をかけて土壌汚染を取り除く工事が求められたりすることがあるからです。
また、土壌汚染があると土地の資産価値は大きく低下するため、土地を担保に融資を受ける際にも土壌汚染調査で担保価値を確認する必要が生じる場合もあります。
さらには、豊洲市場問題によって土壌汚染問題が広く認知されたこともあり、賃貸物件であっても以前工場があった土地などについては土壌汚染の有無を気にする借り手も増えています。
従って、土壌汚染が疑われる土地を所有する地主さんは、土壌汚染の自主調査を行い、リスクアセスメントを取り入れておくことが、土地活用には欠かせないステップになりつつあるのです。
目次
土壌汚染調査のステップ
実際の土壌汚染調査は、概ね次のような流れで行われます。
- 地歴調査
土地の利用履歴を調査して、土壌汚染の恐れがないかチェックします。特に恐れがなければこの段階で調査終了となる場合もあります。 - ?表層土調査
表土から1m(揮発性有機化合物など)及び、50cm(重金属類など)の土を採取し、分析。特定有害物質が検出されなければ調査終了。 - ?土壌詳細調査
②で有害物質が検出された場合には、地下水汚染を含めてさらに詳細な調査を行い、汚染状況を把握します。
費用については広さなどにもよりますが、簡単な場合で10万円前後から。
詳細な調査を行う場合でも数十万円程度が多いようです。
それほど大きなコストではないので、土壌汚染の恐れがある土地を所有している地主さんは、専門業者に相談だけでもしてみることをお奨めします。
土壌汚染対策工事の方法
土壌汚染調査の結果、万が一汚染物質が検出された場合は、土地活用の前に汚染対策工事を行う必要が出てきます。
具体的には以下のような様々な方法があり、汚染物質の種類や活用目的などによって適切な方法で施工、対策工法を取り入れ、人体への影響を排除していくことになります。
掘削除去措置
汚染物質が存在する深さまで土壌を掘削して汚染土を外部に搬出し、汚染されていない土を外部から搬入して遮水工を施し、埋め戻す方法。
最も完璧な方法と言えますが、汚染土の処理費用や汚染していない土の購入費用、搬入・搬出費用など、コストが膨らむのが難点。
また、この場合、汚染が取り除かれたことを確認するための観測用井戸を設置し、一定期間モニタリングを行うといった費用も発生します。
土入れ替え措置
汚染された土を掘り返し、その下の汚染されていない土と入れ替える方法(天地返し)。
汚染した土を外部に搬出する必要も、汚染されていない土を搬入する必要もないので、工事費を比較的抑えることができます。
盛り土措置
汚染土壌の上に砂利などを敷き詰め、さらに汚染されていない土を盛り上げて覆う方法。
汚染物質が限定的に存在しているような場合の簡易的な方法です。
舗装措置
土壌汚染のある場所をアスファルトやコンクリートで舗装する方法。
雨水や揮発性のガスもシャットアウトできるような頑丈な舗装で“蓋”をしてしまうことで、地下の汚染物質の影響を排除するものです。
豊洲新市場で地下に汚染物質が確認されていながら「科学的に安全」とされているのは、舗装によって地下の汚染物質をシャットアウトしているためです。
その他にも、原位置浄化措置として、原位置化学酸化剤と呼ばれる浄化用薬剤を使ったり、活性炭吸着処理を取り入れ、汚染されている土地の汚染を除去する方法もあります。
土壌汚染物質の種類と広がり
土壌汚染対策法で定められた汚染物質には、カドミウム、シアン類、有機リン、鉛、六価クロム、ヒ素、水銀、ベンゼン、トリクロロエチレン、農薬など26物質があります。
これらの物質が人の体に入ると、疲労、頭痛、吐き気、食欲不振、呼吸不全、発がん性など、様々なリスクが指摘されています。
中でも、鉛、ヒ素、ジクロロエチレンなどが多くの場所で検出されており、特に機械製造工場やクリーニング店などで幅広く使われてきたトリクロロエチレンによる土壌汚染は深刻で、土壌汚染診断が望まれる場所は、全国で実に32万カ所にも上ると言われています。
土壌汚染による不動産価値の減価について
土壌が汚染された土地の調査費用も、汚染を取り除く費用も売り主である地主さんの責任になります。
つまり、土壌汚染のある所有地を売ろうとすれば、地主さんは莫大な費用と時間をかけて浄化会社などに依頼し、リスク対策を取ってからでないと売却はできないことになります。
しかし土壌浄化対策は地主さんにとって大きな経済的負担となることから、このような措置を行う代わりに、売買代金から差し引いて売却するという方法も広く用いられます。
その場合、次のような計算式で不動産価値が減じられます。
土地の汚染がない場合の不動産価値-(①浄化措置費用+②阻害減価+③心理的嫌悪感等による減価)
- ?浄化措置費用
汚染した土壌を掘削して汚染のない土に入れ替えるなど、適切な土壌浄化工事を実施するために必要なトータルコスト。
“買い手”が浄化措置を行うための費用として、売却代金から差し引くわけです。 - 阻害減価
買い手は土地の購入後、浄化工事やモニタリング期間などが必要なため、すぐには使えません。
この土地を使えない期間に阻害される利益を勘案して、減価されます。 - ?心理的嫌悪感等による減価
過去に土壌汚染されていたという事実によって、住民や利用者の心理的な嫌悪感が予想される事で、その分が減価されます。
つまり、土壌汚染がない場合の不動産価格(相場)から①~③までのすべてのコストを丸ごと引いて残ったものが、実際の取引価格になるわけです。
こう書くと、大きな減価が予想されることから土地活用を諦めてしまう地主さんもいるかもしれません。
しかし多くの場合、土地の価値に比べれば減価分はそれほど大きなものにはなりません。
もしも、汚染物質を使うような工場やガソリンスタンドなどが建っていた土地なら、ある程度の広さと利便性を備えているわけで、それなりの資産価値が見込まれるはず。
実際、土壌汚染が見つかった土地で分譲マンションやリサイクルセンター、スポーツ施設、研究実験施設、商業施設、住宅団地、駐車場、事業場などに活用している事例が数多く見られます。
土壌浄化対策を行っても充分採算性が取れるケースが多い事の証明です。
土壌汚染対策の様々な実績とノウハウや、サービスを取り入れている事業者や企業も少なくないので、まずは見積りを含めて相談し提案を受けてみるのが第一歩と言えるでしょう。
指定調査機関も数多くありますから、土壌汚染の措置区域となっている場合には、事前の調査をしっかりと行いましょう。