目次
傾斜地とは
傾斜地というのは、文字通り傾斜のある土地のこと。
一般に30度以上の傾斜もしくは3m以上の高低差があるものを「崖」と呼び、それ未満の傾斜や高低差の場合は「傾斜地」と区別しているようです。
土地活用において傾斜地は、活用が難しい土地のひとつに挙げられます。
傾斜地のメリット・デメリット
メリット
眺めが良い
傾斜地は、隣接地よりも高くなっているので眺めが良いケースが多いのはメリットに挙げられます。
前面が崖などで遮るものがない場合には、眺望の良さを求めて住宅地や店舗を希望する人も多いですし、仕事の効率を高めるために、自然を感じられる事務所などとしての引き合いも期待されます。
実際、崖を利用して空中にせり出した耐久ウッドデッキ施工(スカイデッキ)などの構造を取り入れ、視界を遮るものが何もないダイナミックな眺望と開放感を楽しんでいるという人も存在します。
ウッドデッキは、天然木を利用しており、住宅街にはない一味違った雰囲気を味わいやすく、地主さんだけではなく、住宅、店舗などを利用するお客様にも人気が高い建物となります。
プライバシーの心配も少ない場合が多いようです。
また、南面傾斜地であれば、日当たりが良いため、冬も暖かく過ごすことができるでしょう。
地価も比較的安価な場合が多いため、わざわざ傾斜地を探し求める方もいるほどです。
半地下室が作りやすい
傾斜を活かすことで、基礎と半地下室を兼ねた空間を作りやすいというメリットもあります。
平坦地で地下室を作るより安価で、半地下なので窓も大きく作れるといったメリットもあります。
2階建てでも実質3階建てと同じ住空間を手に入れることができるわけです。
デメリット
地滑り等の危険性
傾斜地は山や丘陵の末端近くである場合が多いため、大雨や地震などで地滑りなどが発生する危険性を内在しています。
万が一地滑りが発生した場合、建物等が崩壊する危険性があるし、周囲で地滑りが発生しただけでも資産価値は大幅に低下してしまいます。
土地活用策として、アパマン経営や貸店舗などを行っていた場合には事業計画が根底から崩壊してしまうばかりか、地滑りによって発生した人命・財産への責任問題も問われかねません。
法的規制を受ける
所有地が「急傾斜地崩壊危険地域」に指定されていた場合には特に厄介です。
「崩落対策工事」や「がけ条項」をクリアする必要があるなど、様々な法的規制を受けることになります。
その費用も手続きも大変であり、地主さんとしては頭の痛い問題です。
【がけ条例とは】
崖の上または下に建物を建てる場合に受ける規制で、自治体によって内容は異なります。
例えば東京都の場合は「高さ2mを超えるがけの下端から、がけの高さの2倍以内に建物を建築する場合には、高さ2mを超える擁壁を設けなければならない」となっており、この条例をクリアしないと建築は認められません。
各都道府県のがけ条例一覧はこちら
デッドスペースになる
敷地に崖のようなのり面がある場合には、そこはまず利用価値はありません。
つまり、固定資産税は納めながら、デッドスペースを抱え込むことになるわけです。
しかも、万が一のり面が崩落した場合には生命財産の危険が生じますし、その際はのり面の所有者の責任が問われるので、大問題になる恐れもあるわけです。
傾斜地の最大の問題は、やはり地滑りなどによってすべてが失われる可能性があることです。
これは、眺めや日当たりが良いことや多少地価が安いというメリットを吹き飛ばすほどのデメリットと言えます。
行政も、人命・財産にかかわるリスクであることから様々な規制を設けており、これが地主さんの土地活用を一層難しくしているのが現実です。
傾斜地の土地活用における5つのチェックポイント
それでも所有しているだけでは、固定資産税などの保有コストがかかるだけなので、何らかの土地活用策が必要です。
その場合、まずは次の5つのポイントをチェックする必要があります。
「急傾斜地崩壊危険区域」でないか
所有地がもしも「急傾斜地崩壊危険区域」に指定されていた場合は、崩落対策工事の必要が生じます。
工事費用の8~9割は国や自治体が補助してくれますが、残り1~2割は地主さん負担です。
工事の規模によっては少なからぬ出費を覚悟しなければなりません。
「宅地造成法」改正後の土地か
所有地が造成地の場合は、造成時期が大きなポイントになります。
平成18年9月に宅地造成法が改正され、ひな壇造成地の仕様が一段と厳しくなっています。
それ以前の基準で造成された土地の場合、比較的緩やかな傾斜地でも地滑りが発生する可能性があり、阪神淡路大震災級の地震によって地滑りに襲われる危険性があるのです。
擁壁はあるか
擁壁とは、土地の崩落を防ぐために設置されるコンクリートなどの堅牢な壁で、いわゆる土留め壁。
土地の末端が崖や大きな段差になっている場合には、擁壁でしっかりと土留めしなければなりません。
擁壁がなければ、大雨や地震で土地が崩落する危険があり、所有地の建物が崩壊するばかりか、隣接地に土砂が流れ、被害を拡大させ、隣接地主とトラブルになる恐れもあるからです。
擁壁の設置は百万円単位の施工価格がかかるので、非常に大きな出費を覚悟しなければなりません。
地盤改良が必要か
傾斜地の場合、支持地盤が脆いというケースも良く見られます。
その場合、建物を施工する際には地盤改良によって建物の建築に適した地盤にする必要があります。
この場合も百万円単位のコストがかかる可能性があり、収支環境を悪化させる可能性があります。
人工物が埋設されていないか
将来土地を売却する際、地盤改良のために打ち込んだコンクリート杭やコンクリートの地盤などの「人工物」は売主が撤去することになっています。
最近では砕石などの自然物で地盤改良を行う方法も出てきているため、もしも地盤改良を行うならこのような方法を採用しておくと良いでしょう。
傾斜地に向いた土地活用法
傾斜地が抱える様々なリスクを考えた場合、アパマン経営の住宅建設や貸店舗、事務所などといった建物を建設して賃料を得る土地活用策は慎重に判断するべきです。
家づくりするための地盤やのり面の改良工事に多額のコストが懸念されるうえ、万が一地滑りが発生した場合のダメージが致命傷になりかねないからです。
また、駐車場やトランクルームの場合も、地滑りによって車や保管している財物に損害が生じた場合の保証問題の可能性も心配されます。
従って、傾斜地の場合は、不動産売買ワンポイントアドバイスを利用したり、次のような土地活用策の可能性を探ってみると良いでしょう。
太陽光発電事業
所有地が南面傾斜地の場合は、太陽光発電事業がお奨め(緩やかな北面傾斜地でも設置可能です)。
すでに傾斜しているので施工場所として架台の設置がしやす場所となりますし、南面に遮るものがなければ発電効率の面でも理想的です。
万が一地滑りが発生したとしても人的被害は避けられる上、再建費用も建物に比べれば安価で済むのもメリットと言えるでしょう。
しかも、概ね10年で投資が回収でき、それ以降は高い収益性が期待できるため、傾斜地の土地活用策としては比較的リターンが大きいのも魅力です。
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売却
傾斜地は、眺望や日当たりが良い上、地価は比較的安価で、アイディア次第で個性的な家が建築できるということで、マイホーム用の土地として根強い人気があります。
傾斜地の土地活用を取り扱っているガーデナー建築家は徐々に増えつつあります。
注文住宅を希望し、建築家依頼サービスや、建築家紹介センターを利用するような人も増えてきていますし、そのようなサイトに登録をする会員建築家も多くなっているのです。
地主として紹介サービスを利用する場合には、建築家一覧をチェックし、依頼事例や設計事例を確認した上で依頼しましょう。
その上で専門家の意見を聞き、施工担当者と相談をしながら、土地活用を進める事が大切です。
一方、少子高齢化と人口減少時代への突入によって、土地の需給バランスは大きく変わり、条件の悪い土地から値崩れしていくことが懸念されています。
つまり、条件の良い平坦地も、今後は徐々に値下がりしていく可能性があり、そうなったときに果たして傾斜地の安さが魅力になるのかは疑問です。
傾斜地の人気が高かったのは、やはり周囲よりも安価で手に入れやすいからであり、平坦地が手に入れやすくなれば、平坦地に負けてしまう恐れは十分あり得ます。
そうなれば、傾斜地の値下がりに歯止めがかからなくなり、売ろうにも売れない「負の遺産」になりかねません。
従って、買いたいという人がいるうちに不動産売買を行い、売却してしまうことは、賢明な選択と言えます。