土地活用策としての飲食店の魅力と注意点
交通量の多い幹線道路沿いに土地を所有している場合、コンビニやドラッグストアなどの物販店や、ガソリンスタンド、カー用品店などのドライバー向け施設、カラオケ店、レンタルビデオ店などの娯楽産業など幅広いテナント企業との契約となる土地活用策が浮かびます。
中でも、最も大きな引き合いが期待されるのが、飲食店です。
何しろ、日本の飲食店の数は約67万店にものぼり、全事業所の11%を占めると言われています。
コンビニが約5.5万店ですから、いかに膨大な数の飲食店がひしめいているかがわかります。
ただし、飲食店の数は平成3年(約85万店)をピークに減少傾向にあり、新規開店した飲食店の内、10年以上営業を継続しているのは1割程度と言われるほど激しい競争にさらされる業種でもあります。
テナント事業者にとって、大きな飲食店は魅力的な借り手であるのは間違いありませんが、反面、出店した飲食店の9割が10年以内に撤退している“要注意業種”でもあるわけです。
それではまず、土地活用策としての飲食店の一般的なメリットと注意点をおさらいしましょう。
メリット
家賃を高く設定できる
同じ場所でもアパート経営やマンションなどの住居系となる賃貸事業よりも、同じ面積で1.5倍~2倍という高い家賃を設定できると言われています。
(ただし、ロードサイド型飲食店の場合は大きな駐車場が必要なので、敷地全体から見れば必ずしも家賃収入が高いとは言えない場合もあります)
立地の制限が緩い
住居系に比べ、飲食店などの商業施設は建築基準法などの要件が緩く、アパートやマンションの建設が難しいような土地でも事業化が可能になる場合があります。
入居者管理がラク
飲食店経営者は信頼や評判を重視するので、近隣の迷惑になるような行為はまずしません。
むしろ掃除や除草をこまめに行い、清潔な環境を維持してくれるため、アパマン経営に比べて入居者管理に悩まされることは少ないと言えます。
注意点
初期費用が掛かる
飲食店にはプロ仕様の厨房が必要であり、防火や衛生管理にも特別な基準を要求されます。
このため物販店などに比べ、比較的初期投資が大きくなります。
また、規模によっては高価な業務用エアコンなどを導入する必要があり、建設費を押し上げる要因になります。
もちろん、土地のみを貸し出す場合は地主さんには建設費の心配はありませんが、借り手が初期投資を惜しんだ結果、客足が伸びずに数年で閉店に追い込まれることも珍しくはありません。
必ずしもこれでは地主さんにも大きなダメージとなるため、地主さんに建築資金調達力があるのであれば、地主さんがしっかりした建物を建てて貸し出す方法を模索した方がベターかも知れません。
店舗側から建設協力金となる建築費用を出してもらう事で、オーナーが初期費用を抑えて店舗を建築するという方法もありますが、店舗側との交渉次第となり、必ずしも建設協力金を出してもらう事が出来るわけではありませんから、建設協力金を目当てにしている場合には注意が必要です。
店舗の損耗が激しい
毎日多数のお客様が利用する飲食店の場合、床や壁、トイレなどの傷みが激しい傾向にあります。
また、厨房は油や湿気の影響で傷みが出やすく、業種によっては臭いが染みついたり、下水管の詰まりなどの問題が発生したりする場合もあります。
物販店などに比べて損耗が激しいため、あらかじめその修繕費用を見込んだ賃料設定が必要でしょう。
閉店のリスクが大きい
10店の内、9店が10年以内に閉店しているのが飲食店なので、契約期間内にもかかわらず、閉店されてしまう可能性があります。
しかも、1店にのみに貸し出している場合、賃料収入が突然0円になるわけで、アパートのように何人かの入居者に貸し出す場合に比べて解約のダメージが大きくなります。
次の入居までに時間がかかる
飲食店の場合、厨房設備がある分、原状復帰に時間がかかる傾向にあります。
また、原状復帰せず「居抜き」で貸し出すことも可能ですが、その場合、同様の業種(焼肉店なら焼肉店、ラーメン店ならラーメン店など)にしか貸し出しにくくなるため、なかなか次の入居者が見つからなくなる危険性もあります。
住居系なら内装を補修しても1か月もあれば次の入居者を入れることができますが、飲食店の場合は数か月にわたり賃料収入が途絶える可能性があることを覚悟しておかなければなりません。
食中毒のリスク
飲食店が食中毒を起こした場合、最悪の場合廃業・倒産に至る場合さえあります。
一定期間の営業停止命令で済んだとしても、それがニュースに取り上げられでもしたら、マイナスイメージはなかなか払拭できず、長期にわたり客足が遠のいてしまうからです。
どんなに繁盛していたとしても、たった一度食中毒を出しただけでも経営の土台が揺らいでしまうのが、飲食店経営だということは、地主さんも忘れてはなりません。
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ロードサイド型飲食店のメリットと注意点
交通量の多い道路沿いに店舗を構える「ロードサイド型飲食店」の場合、一般の飲食店にはない強みがいくつか挙げられます。
メリット
広告効果
幹線道路沿いの飲食店は、常に不特定多数の目にお店の存在を印象付けることができます。
しかも、その多くが店舗周辺に住んでいる方か職場などに近い方といった、店舗周辺を生活圏にしている方。
つまり、有望な見込み客の記憶にお店を強烈に焼き付けることができるわけです。
「今日何食べよう?」と考えた時に、「そういえばあそこにあんなお店があったな」と思い出し、来店につながる効果が生まれます。
高い広告費を掛けなくても、効果的に集客できるのはロードサイド型飲食店の大きなメリットです。
客数・客単価が大きい
ロードサイド型飲食店はマイカー客をターゲットにしているため、家族連れやグループでの利用が期待されます。
それだけ、いわゆる”おひとり様“よりも客数と客単価のアップが期待され、収益性・安定性を引き上げます。
ちなみに、飲食店の利益率は6~7割と言われます。
物販店の場合、2~3割がせいぜいなので、利益率の高さが突出しているのも飲食店の特徴で、さらには”日銭商売(現金商売)“であることを考え合わせれば、安定経営が期待される業種と言えます。
注意点
広い駐車場が必要
マイカー客をターゲットにするため、客数に見合った広い駐車場が必要です。
もしも、駐車スペースが小さいと「いつ行っても車を停められない」という印象を持たれてしまい、敬遠される恐れが生じます。
従って、収容客数から見て、十分に余裕のある駐車場を備えておくのがロードサイド型飲食店の鉄則となります。
もしも土地が狭く、充分な駐車場を確保できない場合は、隣の土地を借りてでも駐車場を確保するべきです。
ドライブスルー型にする方法もありますが、まだまだ日本では一般的ではないので、ドライブスルーにしても駐車スペースはきちんと確保するのが無難でしょう。
また、広さだけでなく「入りやすく、出やすい」駐車場にすることも重要なので、まずは道路と駐車場の位置や収容台数を決めてから、店舗の配置や客数を決定するといった意識を持つこともポイントとなります。
遠くから目立ち、わかりやすい外観が重要
マイカー客をターゲットにするため、運転中でもいち早く目に飛び込み、どんな店なのかが判別しやすいことが集客を大きく左右します。
車の場合、直前になってから「入りたい」と思っても通り過ぎてしまうことになりがちだからです。
従って、遠くからでも目立つ外観と大きな看板は、ロードサイド型飲食店にとってはとても重要です。
お洒落な外観にこだわるあまり、ドライバーから見過ごされてしまうようでは意味がありません。
長期的に繁盛してもらう必要性から、地主さんも看板や外観にも大いに意見を述べるべきです。
繁盛するとライバルが出現しやすい
運よくロードサイド型飲食店として繁盛店になったとしても不安材料はあります。
繁盛店ができると、その周囲に同様の飲食店が出現するということが良く起こります。
繁盛店が存在するということは、ロードサイド店としての条件(利用者の数や道路からの入りやすさなど)をクリアしていると考えられるため、安心して出店できるためです。
ロードサイド型飲食店が集積することは、エリアとしての集客力がアップする利点もありますが、やはり古い店よりも新しい店が有利なのは明らか。
結果としてお客が奪われる危険性もあるので、定期的なリニューアルや新メニュー投入などで飽きられない工夫も重要になってくるのです。
地主さんとしても、契約の段階から経営者の長期的戦略を確認しておくことも忘れてはないポイントとなります。
ロードサイド型飲食店として土地活用するには
ロードサイドに限らず、飲食店経営を成功させるには特別なノウハウが必要です。
店の作り方ひとつで客の回転数や客単価まで変わってくると言われるため、店舗開発実績の豊富な建築会社や専門のコンサルティング会社などを見つけて店舗設計からスタートすることが重要です。
また、ファミリーレストランやコーヒーショップなど、ロードサイド型飲食店を多店舗展開している企業に直接問い合わせるのも有効な方法でしょう。
もちろん、事業用借地権方式などを使って、土地のみを不動産業者に貸し出す方法もあり得ますが、賃料収入が限られるのと、万が一閉店ともなれば地主さんは大きな影響を受けてしまいます。
閉店となった場合の影響の大きさ、次の借り手を見つけることの難しさなどを考えると、ロードサイド型飲食店のテナント側と地主さんの関係は「運命共同体」とさえ言えるでしょう。
それだけに、地主さんも飲食店経営にきちんとコミットしていく姿勢がとても重要になってくると言えます。
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