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土地活用策としての墓地のメリット・デメリット
800万人とも言われる「団塊の世代」は、現在70代に差し掛かり、今後深刻な「墓地不足」が発生すると見られています。
特に団塊の世代は兄弟が多い傾向にあり、墓を持たない次男・三男も多く、その大半が都市部に出て家庭を構えています。
従って、今後都市部では、墓地争奪戦が過熱することが予測されており、それを見越して様々なタイプの墓苑や霊園が誕生しています。
土地活用策として墓地や霊園運営を見た場合、アパマン経営にはない数々の魅力が浮かびます。
第一に住宅には向かないような土地でも墓地や霊園なら問題がない事。
住宅のような電気・ガス・上下水道などのインフラを引き込む必要がないため、造成費用も抑えられるでしょう。
宅地建物を建てないので、市街化調整区域の網がかかっている土地でも可能性があるはず。
墓地として活用する場合には、固定資産税がかからないという事も魅力の1つとなるでしょう。
しかも、商業施設や工場などと違って、移転・閉鎖の心配もまずないでしょう。
しかし、その反面、一旦墓地として利用したら「もう二度と他の土地活用は不可能になるのではないか」という心配も頭をもたげます。
そこでまず、墓地や霊園として土地を活用する場合のメリット・デメリットを簡単に押さえておきましょう。
メリット
長期安定経営
墓地はよほどのことがない限り、移転や閉鎖はありません。
しかも「永代使用」を前提としており、世代を超えて利用してもらえるため、これ以上長期にわたり安定経営ができるビジネスはまずないでしょう。
住居などに向かない土地でもOK
スーパーや学校など生活施設が整っていないような場所でも開園可能です。
むしろ周囲に人家が迫っていないような場所の方が近隣との調整が面倒ではないため、有望と言えます。
自然環境が豊かで、日当たりや眺望に優れた小高い丘や山の方が人気なので、資材置き場やソーラー発電所ぐらいにしか利用できないような山あいの土地でも、より大きな収益が期待できます。
海を眺めて眠りたいという方も多いので海辺の土地も有望です。
海辺の土地は塩害の影響があるので、お墓は数少ない好適事業と言えます。
ただし、墓参しやすいよう市街地からあまり遠くない場所が理想です。
市街化調整区域にある土地でも充分可能性があります。
管理がラク
入居者がいるわけではないので管理がラクなのも魅力。
基本的に共有部分の除草や掃除などの管理で済むため、広大な敷地であってもランニングコストは比較的抑えることができます。
デメリット
他の土地活用はできなくなる
一旦墓地として利用した土地は「以前は墓地だった」という歴史が残るため、他の土地活用策はまず困難となります。
例えば、墓地だった場所に建てたマンションや新築一戸建てなどの住宅が売れるでしょうか。
高齢者施設や、特別養護老人ホームなどの社会福祉施設を建築した場合、住みたいと感じるでしょうか?
たとえ駐車場経営であっても、以前墓地であった場所には停めたくないと考える人が多いのではないでしょうか。
そもそもディベロッパーが墓地だったことを知った時点で契約は流れるでしょう。
そのため、資産価値もその分低くなることは覚悟する必要があります。
それ以前に「永代使用」を前提とするため、定期借地契約ではなく一般借地契約となり、半永久的に墓地として運営されることになります。
つまり、仮により有効利用できる土地活用策の打診があっても、チャンスを生かすことはできなくなるわけです。
墓地として土地活用する場合の2つの方法
大前提として、営利目的の墓地・霊園造成は、個人では許可されません。
それが認められるのはお寺や霊園業者などの公益法人や宗教法人、社会福祉法人だけ。
従って所有地を墓地・霊園として活用しようと思ったら所有者は、次のいずれかの方法で行う以外ありません。
自分が墓地のオーナーになる
必要な手続きと費用をすべて自前で行い、役所の認可を得て霊園経営に乗り出す方法。
しかし、そのためには以下のような高いハードルをすべてクリアする必要があります。
- 公益法人もしくは宗教法人を設立
- 数千万円から億単位の費用を準備
- 役所との交渉と各種申請
- 墓地条例をクリアし認可を取得
- 近隣住民への説明と合意取得
などなど、とても素人の手に負えるものではありません。
特に近隣住民との交渉には精神力や忍耐力が求められるし、多額の費用を長期にわたり確保するのは容易な事ではありません。
安易な気持ちで手を出すと、大やけどをする心配さえあります。
ただし、専門のサポート業者も存在するので、運よくサポート業者の協力が得られる場合は、霊園オーナーになることも不可能ではありません。
この場合、土地と必要な資金だけ用意すれば、後はお墓の販売価格の決定から、販売開始まで、すべてサポート業者が進めてくれます。
開園後のサポートもしてくれる場合が多いので、信頼できるサポート業者さえ見つかれば、可能性は一気に広がります。
霊園業者に土地を貸し出す
所有地をお寺や霊園事業者などに貸し出す方法。
つまり、借地契約を結び、所有地を使って霊園運営を行ってもらう方法です。
運営主体は霊園事業者なので、地主さんには霊園開園に向けた申請や交渉などの面倒なことは一切ありません。
開園のための多額の費用を用意する必要もありません。
霊園用地を探している事業者とうまくマッチングできるかどうかがカギになってくるので、インターネットなどで検索し、専門の業者を見つけて相談し、回答を得てから判断するようにしましょう。
不動産業者では、取り扱いがない場合もありますから、事前に問い合わせる事が大切です。
借地契約の場合、所有者が亡くなった場合には一般的な相続財産と同じ扱いとなります。
一般的にはお墓を相続する場合には、相続税はかかりませんが、霊園開発として相続する場合には、相続税評価額が算出され、登記される相続人が相続税を支払う事になります。
その場合、契約内容などは一切変わりません。
中には、相続税対策として、生前贈与を取り入れる場合もありますが、評価対象地として、贈与税が発生しますから、注意しなければいけません。
墓地霊園への活用の可能性を探るには
所有地が墓地や霊園にできる可能性があるかどうかは、所有地を所管する自治体などに問い合わせて判断します。
建物面積により、規制がありますから、必ず各自治体に問合せ、墓地としての活用が可能かどうかを確認しましょう。
国の墓地条例をもとに、市町村ではそれぞれ独自の条例を制定しており、自治体の実情に合わせて基準が緩和されたり、より厳しく規制されたりしています。
つまり、自治体によって墓地の規制はまちまちなので、まずは役所に問い合わせ、相談するのが第一歩となります。
また、石材業者が霊園運営に深く関与する例も増えているので、地域で大きな力を持つ石材業者に出向き、実情や展望を聞き出すのも有効な方法です。
墓地・霊園の今後の展望
確かに今後十数年は、お墓の需要が過熱していくことが予想されています。
しかしその一方で、お墓という形態は、大きな曲がり角に差し掛かりつつあることも念頭に置く必要があります。
それは今後、子や孫がお墓参りしにくくなる事態が想定されること。
これからの時代、子や孫はどこに住み、どこで働くかは予測不能です。
たとえ、東京にお墓を建てても、子や孫は北海道で暮らすかもしれないし、海外で生活するかもしれません。
そんな時代に、土地に縛られたお墓は子や孫の負担にしかなりません。
自分のお墓参りのために何日もの時間と、何万円もの費用をかけて子や孫に来てもらうことを望む親は少ないでしょう。
このため、昔ながらの立派なお墓は建てない方が増えているのです。
たとえば、樹木の根元に複数のお骨と一緒に埋葬してもらう樹木葬を希望する方が増えています。
初めから墓参りを期待せず、好きな花と一緒に眠りたいと考えているわけです。
あるいは、手元供養と言って、お墓ではなく家の中で供養する形態を希望する方もいます。
また、ビルのような納骨堂にお骨だけを納めてもらうスタイルも人気を集めているとも聞きます。
つまり、これからは、お墓の概念が変わって行き“一家で一区画のお墓を代々占有する”という形態をとらない方が増える可能性があるわけです。
そうなると、墓地に必要な面積が減少し、借地料の回収が困難になる事態も充分に警戒されます。
一度墓地として運営した土地は、その後他の土地活用が難しくなることや資産価値の低下、土地評価額の評価減となることも考慮して、情報収集をしっかりと行い、慎重に判断すべきでしょう。